ブリタニカ

好きなもの、好きなだけ、好きなように

※感想については全てネタバレあり。くれぐれも鑑賞後にご覧ください※

セッション

監督・脚本:デミアン・チャゼル

出演:マイルズ・テラー

区分:映画

評価:★★★

 

音楽が主題の映画だが、音楽を知らない人でも十二分に楽しめる。というか、逆に音楽を良く知っている人(特にジャズ、ドラムについて)は楽しめないらしい。だから音楽映画というより、かなりダークな青春映画、とでも表現した方が良いのかもしれない。

自分がこの映画のどこに一番好感を持ったかといえば、「余計なものが少ないこと」を挙げるだろう。本作品は、主人公ニーマンと指導者フレッチャー、二人の『セッション』を軸に物語は進行するのだが、まさにそのために必要な場面が必要なだけ用意されている(恋人との別れや家族との軋轢など、必要ではあるが、その割に中途半端に触れた感の強い要素もあるにはあったが)。訳のわからんシーンが多い謎映画とは一味違い、この作品が何を目指しているのか、この作品を通して何を伝えたいのか、それを終始訴え続けてくれる非常に親切な映画である。

一方で、映画史を塗り替える!とかいう、これまた大仰なキャッチコピーのラストシーンは、消化不良気味であった。ニーマンがフレッチャーの復讐に、復讐で応え、やがてその衝突が理想の演奏に昇華される、というのは大層キレイなエンディングで、エンドロールに入るタイミングもばっちりだった。悪くはないし、確かに面白かった。しかし、自分の評価は星三つ。なぜなら、その理想の演奏が実現したのはフレッチャーが意図したことではないのか? 要するに、ニーマンへの復讐はそのための布石だったのではないか? という解釈の余地があったから面白いと思ったのである。理想のエンディングは、フレッチャーも、それを巻き起こしたニーマン自身も、それがなぜ起こったのか誰にもわからないところで、作品は終わっている。そこに、フレッチャーが実は全て意図していたのでは? という可能性がさらに加わることで、一層面白くなる余地もあったのだが、それはよくよく考えてみれば、自分の勘違いだったのだ(シモンズの演技をみれば、フレッチャー自身も全く予期していなかったことは、明らか。フレッチャーが意図していたのかも、という伏線は全く出てこないので、作品はその可能性までは意図していない)。まあ、逆にその「予想外」こそ評価すべき点だ、という声が大衆を占めるのだろうが。

最初にこれは音楽の映画ではないと言ったが、だからといって、代わりにスポーツとか恋愛とか何か結果が明確にわかるものが題材として選ばれていたら、あのラストはさらに薄っぺらい出来になっていたと自分は確信している。音楽、という形がなく評価が分かれるもの(奇しくも劇中でニーマンの家族が『音楽なんて人の好みで結果が変わるんだろ?』と嘲笑していたのが印象的)だったからこそのラストなのだ。音楽は一般的に芸術というジャンルに入る。そして、芸術って何? という質問に納得のいく答えが出来る人には普通お目にかかれない(「芸術なんて人それぞれで感じ方変わるっしょ」的な模範解答が関の山)。要するに、それくらい未確定要素のある芸術-音楽をベースに展開したからこそ、あのラストには深みと感動が生まれる余地が確保できたのである。

スターウォーズ / フォースの覚醒

監督:JJ・エイブラムス

出演:デイジー・リドリー

区分:映画

評価:★★★

 

自分の中では何だか停滞気味の映画界に、2015年の暮れ、あのスターウォーズが帰ってきた! 久々に映画館へ足を運ばせようとする作品の登場にワクワクしたが、さすがに、というか、まあ当然行くことはできず。胸の高鳴りは、執拗に繰り返されるCMと番宣で消化。そして2016GW。ついにリリースされたので早速レンタル!……したのだが。感想は一言しかでて来なかった。「心には残らない、でも後悔もしない」。悪い意味でも良い意味でも、映画らしい映画というか、正に及第点を地で行くような模範的作品だった。

シリーズの伝統を引き継ぐという点では、お手本のような仕上がりなのだ(……ある重要な一点を除いては)。初見の方には、そのわかりやすい王道ストーリーで飽きさせず、従来のファンにはこれ見よがしのオマージュを盛り込んでおもてなし。そう、実に死角の無い優等生なのである。「これがスターウォーズか!」という初見さんと、「スターウォーズよ、おかえり!」というシリーズファンの姿が容易に目に浮かぶ。

が、それだけなのである。スターウォーズがなぜ映画史に残るほどの作品になったのか、それをこのエピソード7は完全に置き忘れて来てしまっている。無論、守りに入って守りきれない作品は多々あるし、特にシリーズ系はその成功例を自分はほとんどお目にかかったことがない。それからすれば、とんでもないネームバリューのこの大物を、墜落させずに何とか次に繋げたという点では、エイブラムス監督に賛辞を送るべきだろう。ただ、それでもやっぱり残念なものは残念なのである。

やはりスターウォーズには見る者を圧倒する迫力と目新しさ(ストーリーや映像、全ての面で)があってこそなのだ。次回作のローグワン(なぜ続編ではなく、それも3と4の間のスピンオフ?)では、スターウォーズスターウォーズたる所以をぜひとも見せつけて欲しいところである。

マイ・インターン

監督:ナンシー・マイヤーズ

出演:ロバート・デ・ニーロ

区分:映画

評価:★★

 

きっとハサウェイやデニーロのファンには垂涎の作品なんだろうけど、自分はそのどっちでもないので、どうしようもない。マイヤーズ監督の作品では『恋愛適齢期』を見たことがあるがまさに同じ印象を受けた。どうも話に凹凸が無い。何というかのっぺりしている。きれいな色の、味のうっすいスープを延々と飲まされた感じ。まあ、それが言うほど悪いわけでもないが、★2つであることは変わらない。

本作に関して、どこがどうだったらもっと面白かったか考えてみた。一つ挙げるとすれば、豪華W主人公の関係性にグッと来なかったことだろうか。仕事に忙殺されていたジュールズを、ベンがその培われた経験で正しく導いてやるのがコンセプトだと思ったのが、イマイチジュールズが救われた感が少ないように感じた。不法侵入のメール削除、運転手、浮気相談、悩み相談……。何だかベンじゃなくても、できそうなことばっかりな気がしてならない。一番の原因はジュールズの問題がそれほど深刻じゃないからだろう。もっと言えば深刻に見せる気がないのかもしれない。例えば浮気の話は最もシリアスになりそうなのに、悩んだりする場面が一切映されず。いきなり、ベンを部屋に呼んで、女子会後の悩み相談的にまくし立てるのみ。軽い。要するに軽い。画面というか作品全体が。視るというより、観るためのスタイリッシュ映画に徹しているように思えてならない(確かに街並みとか、ファッションはキレイだった。ジュールズ娘の送迎途中、あの木漏れ日は特に最高)。ジュールズが社員から嫌われていて、それをベンとのやり取りを通して改善されていく、とかそういうのもなく。経営企画等の仕事面での絡み合いもちょこっと出しておきながら、その後ベンが絡むことはなく。女性が仕事でバリバリやってるのが今の時代なんだ、というそんなもうわかりきってることしか終始提示されないので、新しい考え方とかもなく。つまりジュールズの欠点が浅いから、ベンがそこを埋めていく快感が薄いのである。

気軽に見れるようでいて、何だか玄人向けの映画なのかあと嘆息してしまった。

アメリカン・スナイパー

監督:クリント・イーストウッド

出演:ブラッドリー・クーパー

区分:映画

評価:★★

 

残念ながら残念な映画だった。期待がそれなりに大きかった分、「こんなもんかあ」と感じてしまった。クリント・イーストウッドは巨匠らしいので、知らぬ間に一つ二つは金曜ロードとかで見たことがあるんだろうけど、今作に関してはこの監督が撮りたかったテーマが、イラク戦争というビッグコンテンツに対して役不足過ぎたのかなと思えてならない。

「愛する家族から離れたくなかったが、戦場で戦う友人や同志も守りたかった、という狙撃手の心境に共感し、監督を引き受けた」「クリスの功績と、人生の個人的な側面が、どう交わるかを描いた。」らしい。確かに巨匠というだけあって、コメント通りの映画を見事に作り上げている。しかしその代償として、深みの無い通り一辺倒の印象しか残らなかったのでは、と思う。パッケージを見て(観てないが恐らく予告編も同様だろう)この作品に抱くイメージは「ああきっと、任務だから人殺さないといけないけど、平和な世界とのギャップに苦しむんだろうなあ」みたいにぼんやり思うはず。少なくとも自分はそうだった。そして実際に見てみると、その通りのことが表現されている。ただ、それだけ。浮き彫りになるのは、主人公カイルの英雄思想?的な性格で、それは個人の問題に帰するのみだ。それをイラク戦争なんていう、複雑なノンフィクションに当てはめて描いたことが最大の敗因なんじゃないかと思う。だって、それなら架空の戦争(現実とは離れたSF世界でも良い。)を舞台にした方がスッキリ見れる。実際の戦争を持って来てしまうと、別のテーマを意識ぜざるを得なくなる。だが当然それらのテーマは素通りなので、物足りなさと各方面からの批判だけが取り残される。(もっとも、イスラム側を敵としてしか描かないことで、一方的な視点しか持っていないアメリカ人へのメッセージとしている……わけないか)

ただ、クリスが今まで救って来た味方(PTSDで錯乱していたらしい?)に、逆に殺されてしまう、という壮絶かつ皮肉過ぎる終わりを迎えてしまうのは強烈だった。撮影が終わって偶然起こったことなのか、それともその結末込みで作品を撮ったのかで少々話が違ってくるが、どうやら前者っぽい。「考えさせる映画」の雰囲気を出しておきながら、結局「観せる映画」にしっかり仕立てられていたようだ。がっかりである。

最後に、イラク戦争で命を落とされた方々の冥福を心からお祈り致します。

ズートピア

製作総指揮:ジョン・ラセター

日本語吹替:上戸

区分:映画

評価:★★★★

 

何が最高って、クエスチョンマークの浮かぶ場面が全然見当たらないところである。まず伏線は、適切な理由で、適切な量だけ張られており、適切なタイミングかつ素敵な形(中でもにんじん型のペンについては、スゲー!の一言)で、余すところなく回収! テーマは、普遍的で分かり易く、しかもこの『ズートピア』の世界だからこそ活きてくるものを取り上げている! ストーリーは、エンタメらしい起承転結のしっかりした王道物で、伏線とのバランスもばっちり! キャラクターは、今ではすっかり定着したモーションキャプチャー&コンピュータグラフィックス(たぶんそんな感じ)を使っているからだろう、動物たちが全員ベテラン俳優に見えるし、何より主人公ジュディがめちゃめちゃ可愛い! ニックはとにかくイケメン! 相当なひねくれ者でもない限り、観て損はない作品である。(同時期公開の『アーロと少年』とは大違い。絶対こちらを見た方が身のためである。)

さらに付け加えれば、ジュディがズートピアに向かう場面で挿入歌が流れ出したとき、あの一世を風靡したアナ雪が一瞬頭をよぎって冷汗をかいたが、終わってみれば、その挿入歌(というかアナ雪と違ってきちんと歌手がいるれっきとした主題歌だったが)さえも世界観にマッチしていて、非常に完成度の高い作品だった。

いやー、すごく珍しい。製作陣には頭が上がらないです。良い作品!!

ゴシップ・ガール

製作総指揮:ジョシュ・シュワルツ

出演:ブレイク・ライブリー

区分:海外ドラマ

評価:★★★★★

 

この喪失感をどうしてくれる? 素晴らしい作品の唯一の欠点は、それが終わってしまった時のとてつもない虚無感に違いない。もうダンやセリーナ、ブレアにチャックにネイトに会えないのかと思うと、とにかく寂しい……。どうしてくれるんだよ本当に……

 そもそも海外ドラマの手法は、映画等と比べるとはっきり言って卑怯である。なぜなら、限られた時間や枠の中で勝負する映画や小説とは異なり、ドラマにはある意味制限が無い。視聴率が続く限り、作品はいろんな意味で続いていくのだ(大抵は悪い意味だが)。特に海外はその傾向が強いように感じる。数字が取れれば、例えマンネリだろうがグダグダだろうが引き伸ばされるし、逆に取れなければ、いざこれから盛り上がる場面だろうと伏線をばらまいたままであろうと問答無用で打ち切り。だから、正直言って海外ドラマは他の作品と同列に評価できないし、すべきではない。(真っ当な映画ファンの方からすれば、邪道以外の何物でもない。というかそもそも作品として見て貰えないだろう。)しかし、だからこそというべきか、海外ドラマには海外ドラマだけの魅力があると自分は思う。

 それは、映画や小説にはないその圧倒的なである。1クールがおよそ1話1時間×2話×10巻だとすると、20時間。人気作品ともなればシーズン5~6は当たり前なので、100時間は下らない。他人と1日に5時間一緒に過ごす日が20日間も続けば、誰でも愛着ぐらいは湧くのではないか。(少なくとも最早他人ではないだろう?)しかもそれがめちゃめちゃ気の合う人であれば、友人や恋人に発展しても不思議ではない(はず)。まあ、前述のような長~いシーズンを踏破したのであれば、その時点ですでにめちゃめちゃ気が合ってるに違いないのだが。そういうわけで、海外ドラマはその特徴的な尺の長さによって、視聴者にものすごい親近感を植え付けるのである。(エンタメ系長編小説やシリーズ物もこれに共通するかもしれない)。 

ゴシップガール自体に話を移すと、要はヤングセレブのよもやま話である。主軸はそれだけ。それだけなのに、外人が演じるとなぜかそれだけで凄いから不思議だ。これを日本でやろうものなら目もあてられないのだが、外国という要素による非日常間が、全てをオッケーにしてくれる。(自分の外国コンプレックスのせいだろうけども)。

登場人物たちも、最早自分の中では大親友である(←)。セリーナは、結局良くも悪くも見た目は大人、中身は子供の可愛らしい女の子。一番変化がなかったキャラかもしれない。ブレアは演じたレイトン・ミースターさんがとってもチャーミングだったから言うこと無し。女王様ぶりも終始一貫していて、気持ちが良かった。ダンは下流階層の内気な文学青年という設定で、非常に感情移入がしやすく、大好きなキャラの一人。黒幕という最後の大逆転(孤独な僕という語りで、実は最初から答えは提示されていたという憎い設定にも感激!)があったから、終盤のイヤみなダンにも多少納得。あとブレアも言っていたけれど、髪切った方が絶対良いと思った(笑)。チャックは一番魅力が詰まったキャラクターで且つ一番変化(というか成長!?)したヤツでもある。指名手配されながら結婚式を挙げ、誓いのキスの後に即連行されるとか……もうさすがの一言です。チャックとブレアの関係性に、愛情というものの一つの終着点を見た気さえする。ネイト……、途中で薄々感じてはいたが、やっぱり最終回でも独り身(あの未成年女子高生はどこいった?)。ルックスは王子様なのに、ビッチが溢れる今作の中でも屈指の尻軽男だった。性格は一番ピュアだったのに、ドンマイ。あとはリリーやルーファス、ジェニーにエリックと、終わってみれば全員憎めない、というか大好きなファミリーである!(←)。

海外ドラマはその性質上、まとまりのないチグハグ感がつきまとうものだ。ゴシップガールもその例に漏れず、シーズン2辺りから(早い!笑)「あれっ?」ってなったのは事実だ。しかし、ゴシップガールという存在自体が、誰にも共通する注目されたいという欲望をテーマにしていることで、通して観ると一貫性が無くも無い。むしろ、海外ドラマとしてはかなりまとまったレベルだ。物語自体がぶっちゃけ「いつ終わってもおかしくないし、いつまで続いてもおかしくない」話なので、ファイナルシーズンにありがちなとってつけた感が薄かったのも要因だろう。またもう一つの要因として、これが原作ありきの作品だったこともある。どうやら小説を脚本化したものらしい。どうりで。

ジョシュ・シュワルツさんの作品では『The O.C.』が類似作品であるが、単純に比較はできない。どちらも素晴らしいし、かけがえのない家族なのだから!(←←)

この喪失感を埋める救済措置として、上記の原作本でも試してみようかな……

ダンサー・イン・ザ・ダーク

製作総指揮:ラース・フォン・トリアー

出演:ビョーク

区分:映画

評価:★★★★

 

何は無くとも、主演女優(アイスランドの人気歌手らしい)が生理的に受け付けない。顔がどうしても見てられない。こんなに終始顔を歪めながら見る映画は初めてだった。

まあそれはさておき。作品自体は素晴らしいの一言である。情け容赦無いストーリーに、それを静かに引き立てるホームビデオ的カメラワーク、ミュージカルシーンを際立たせる演出の妙、俳優陣の怪演、それら全てが合わさって久しぶりに良作に巡り合えた。この映画、良い意味で気持ち悪過ぎる。ホラーよりホラーしてるというか、胸のムカムカ感がいつまで経っても無くならない。

いや、それにしても。主演女優の、空想に浸るあの恍惚とした表情……。絶対無理。やっぱり生理的に受け付けない。受け付けないのだけれど、ここまでくると、一周回ってむしろ作品にフィットするという。もう、とにかく凄い。ラストシーンまで手を抜かないその徹底ぶりは、視聴者の心をえぐること間違いなし。毒にも薬にもならない作品が溢れる中、これは致死量レベルに近いな……